起業は、長年温めた夢を実現するための行動ですから、浮かれ気分で準備や開業に取り組む人が少なくありません。他人に起業の話をするときも、長年の夢を実現するためのドラマになりがちです。
所が夢に気持ちを奪われていると、起業のポイントとなる現状認識をすっぽり抜かしやすくなります。自分の足場であるはずの現状をほとんど無視して事業を始めるとどうなるでしょうか。
Fさんは、会社の同僚と2人でこれまでの仕事に関連した、IT系のビジネスで2月に開業しました。一応、小さな町にそれに輪をかけたように小さな事務所も構えました。
それから2カ月が経って、開業前から受けていた3件の仕事を済ませたところで行き詰っています。当初の予測では、開業後の2、3カ月の間に仕事が次々と来るはずが、今のところまったくなし。
慌てて起業に漕ぎ着けたために、事前の営業活動はほとんどなしだったことが開業後に響いています。営業用の資料もサンプルもなしで、市場には仕事が沢山あるはずの勝手な見込だけが頼りでした。
このFさんのケースはちょっと酷すぎますが、似たような話はけっして少なくありません。わたしから見て悩ましく思うのは、経営者自身のビジネス能力の現状認識は触れずらいことです。
業務的なことは、強味弱みなどのSWAOT分析や5フォース分析などで、しっかり押さえている人が多いです。問題なのは、雇用しているスタッフを使えない、営業に出向いたのに自社を上手くPRできない経営者の問題です。
周りの誰もが、経営者には問題を指摘できない関係性にも落とし穴があります。それでも、失敗は許されない起業においては、経営者自身が自分の現状認識をチェックする必要があるのではないでしょうか。
【ひと言】
起業する人は事業経験が少ないため、自分では70%、80%の市場情報を認識した上で起業したつもりでも、結果的には40%、50%しか対策を考えていなかったってことはよくあります。「思い込み」と「見過ごし」が多いと、事業で失敗する確率は間違いなく高まります。誰もがそうですが、自分が考えているほど高くないのが人間の能力です。