これから会社を辞めて起業しようとするとき、大半の同僚や上司は「がんばれ!」の声で送り出してくれます。中には、急によそよそしくなる人もいますが、棘のある言葉を聞くことはあまりありません。
Mさんが4年前辞めるときには、「失敗したら戻ってきたら」と親身に心配してくれる上司もいたと言います。そんななか一人の上司からの「上手くいきっこないよ」の厳しいひと言で、頭に血が上った経験があります。
ささやかな送別会や退社の時ではなく、たまたま誰もいないトイレで一緒になったとき。「君はこれまで目立った成果も上げていないし、起業して成功するほどの力量もあると思えない」
「今のままで起業しても、決して上手くいきっこないよ」と断言され、それまで誰もが口を揃えて励ましてくれたことで浮ついていた気持ちが、いきなりハンマーで頭を殴られたような気分に落ち込んだと言います。
実際、起業してみてこれまでの甘い気持ちでは、とても黒字経営は難しいことを悟ったようです。気持ちの持ち方にしろ、日ごろの習慣にしろ、考え方が甘く、経営者マインドなどほとんど持ち合わせていないのが現実でした。
この後を考えますと、トイレでのひと言によってやる気と負けず魂が目覚めたと言えます。決してその上司とは会いたいと思わないけど、今はとても感謝の気持ちでいっぱいと言います。
起業する人にとって、優しい上司や楽しい同僚はありがたいけれど、一生そこに浸かっていたいとは思えない環境です。「失敗したら戻ってきたら」など、起業では決して思い出してはいけない台詞です。
優しくて楽しいのは、これから起業で生きていく未知の世界とは、まったく違った場所の話。これまでの世界と、これからの未知の世界とを勘違いすると大きな失敗につながります。
【ひと言】
これまでの世界と未知の世界とを最も感じるのは、開業して1月、2月立つころです。業種にもよりますが、開業当初は知人や親族が来店してくれますからそれなりに売上げも上がります。問題は、その人たちが来なくなってからのこと。未知のお客さんがどれだけ来店してくれるか、事業の長い道のりはそこからが本番で、そこからが本当の始まりです。