パナソニック創業者の松下幸之助さんの自叙伝の中に、とても興味深いエピソードがあります。10代の大阪の自転車屋に丁稚奉公をしていた時代のこと、彼は店の番頭さんに代わって自転車の売り込みに大店に行きます。
そこで、売り込み先の番頭に当時最先端の移動手段だった自転車を説明して、是非買ってくれるように頼みこみます。その番頭は、定価よりも負けるなら購入するといいます。
それまでお店では、定価から値引きをした価格で売っていることを知っていましたから、店内相場に合わせた価格を提示して受け入れてもらいます。意気揚々と店に戻った幸之助少年は、店主にこのやり取りの報告しました。
てっきりよくやったと褒めてもらえると思っていたのに、店主は幸之助少年に定価で売らなければダメだと言い出します。もう一度相手先にいって、定価で買ってくれるように頼んで来いと叱られます。
幸之助少年が泣いて店主に頼んでいるところに、件の大店の番頭が自転車店にやってきて、丁稚との口約束だけでは心もとないので店主と契約するため来た序でにこの話を聞きます。
店主は、幸之助少年が契約の約束を守るために泣き出したというと、番頭はとても感心してその後の店で自転車購入する場合は、全てこの幸之助少年の店から買うことにしたというビジネスの成功談です。
松下幸之助さんにとって、この体験がその後のビジネスに大きな影響を与えたと言っています。それは、自転車が売れた売れないといった問題ではなく、子供の背中には背負えないほどの大変な思いをした「崖っぷち」体験です。
ビジネスに関わる以上、誰もが自分の背中では背負えないほどの大きな問題を抱えることがあります。相手会社に騙され、大きな負債を抱えて自死を選ぶ人さえいる大きな問題になるテーマです。
そのため、このような体験をすることは「崖っぷち財産」とも言われるほど貴重な経験になります。この経験は、積極的に仕事を仕掛けている人にしか経験することはできません。
もし、自分も経験しようと思ってもおいそれと経験できることはないです。本来、事前によく考え崖っぷちに追い込まれることのないように計画や準備を行います。
それでも、主体的に仕事に取り組んでいる人には、崖っぷちに立たされることがあります。ここで逃げ出さないで、真剣に取り組むことによって、ビジネスの免許を一つ皆伝することができるのです。
【ひと言】
これから起業をしようとする人や、会社に入ったばかりの新入社員には、できることなら胃がキリキリと痛むようなビジネスシーンとは無縁の人生を歩みたいと考えがちです。ただ、人生と同じでまったく危機と無縁の人生を歩みたいと思っていても、病気や事故は思いもよらないところから起こります。崖っぷちも思いもよらない所から起こりますから、立ち向かっていくしかないです。