カルロス・ゴーンさんが、仏・ルノーから派遣され日本に来たのは1999年。97年にアジア通貨危機が発生、山一証券や北海道拓殖銀行など相次いで倒産して、日本経済はほとんど先が見えない状態の時でした。
遂に日本製造業の代表格ともいえる日産自動車までルノーに乗っ取られ、この国の将来はどうなるのか、不安ばかりの時にゴーンさんは日本に来ました。彼は、ルノーもその前のミシュランタイヤでもコストカッターとして地位を築いた人です。
日本においても、武蔵村山工場の閉鎖や系列会社との資本関係の解消など、直接利益にはつながらない事業所、従業員、関連会社を次々に切っていきました。まさに世界レベルのコストカッターとして面目躍如です。
ただ日本に来て早々に、ライバルのいすゞ自動車からデザイン担当の部長だった中村史郎さんを引き抜き、2000年には日産のデザイン担当部長に据えています。日産自動車の全てのデザインを任せました。
それまで、日本の産業界にはデザインを重視する発想はまったくありません。自動車の場合、デザインならヨーロッパ、馬力ならアメリカ、燃費なら日本という棲み分けができていて、デザインにはまったく無関心でした。
そのため、「ゴーンが来て日産のモデルは変わった」と言われるようになりました。ちなみに、スティーブ・ジョブズがアイフォーンを売り出したのが07年。この時期から、日本でもデザインに目覚めた製品が販売するようになりました。
また、経営においても目標値をはっきりさせ、その数字に達しなかったら経営者として責任を取るといった発言も画期的でした。日本企業の経営者に、世界レベルの経営の質の高さを見せてくれたのもゴーンさんです。
それにしても、約20年に渡る大企業での最高経営責任者の任期は長すぎます。地位を取るか、実の収入を取るかどちらかにすべきなのに、両方を取ろうとしたためにやはり罰が当たったようです。
【ひと言】
最近、日本でも「デザイン」を意匠の意味だけなく、設計ということでも使われるようになっています。英和辞典をみると、設計が一義的な意味で書かれ、次いでデザインや図案が出ています。企業の取締役の中にも、CDO(チーフ・デザイナー・オフィサー)を置く会社が増えつつあります。デザインを重視する企業は将来が楽しみです。
