起業にあたりあれこれ事業の候補を考えた結果、Sさんは中高年を相手に健康志向の強いビジネスを考えました。それと初期投資も借金をしない範囲で、開業のできる事業ということで喫茶店に決めたのは6年前。
兆度、コーヒーを飲むことによって老化を防ぐとか、ダイエット効果、脳の活性化など広く研究結果が公になっていた時期です。喫茶店を開業し、中高年のたまり場となる程度のお客さんは集められると考えました。
ただ、この6年間でコーヒー市場の環境は大きく変わりました。以前から、ドトールコーヒーなどの低価格帯ショップと、スターバックスのような高価格帯のショップとは分かれていました。
ところが、郊外型のコメダ珈琲店や星乃珈琲など大型店舗が、廃業した会社やサービス店跡地に次々とできてきます。コンビニのコーヒーも評価が高くなって、Sさんの喫茶店はいよいよ継続が厳しくなりました。
Sさんの予測は外れていませんが、一つ抜けていたのは現在ゼロ金利が続いていることで、少しでも商機のあるビジネスには投資する会社が多いことです。個人が考えるビジネスとは2桁の違う規模で出店を考える企業が多くあります。
もう一つ計算違いだったのは、コーヒー店を閉店するとその後に、資金も仕事も残らないこと。まだ60代ですから、これからの夫婦の生活を考えるとすっかり滅入ると話しています。
【ひと言】
ビジネスでの失敗を極力避けるため、行動経済学では「死亡前死因分析」という手法を使って失敗要因をピックアップします。もし要因が決定的なものでしたら、ビジネスの実行を中止することもあります。現代の「多様性」、「想定外」など一人の人間の想像を超える出来事には、頭数を増やして考えるしかないということです。
