コロナ禍のなか、営業自粛を余儀なくされた飲食店の活路として、宅配ビジネスは各地で市場を広げました。営業店の新たな支援と共に、仕事を失った飲食店従業員の仕事先として宅配は貴重な役割を果たしてきました。
この業界、米国発のウーバーイーツがトップ企業で、それを出前館が追う展開が続いています。気になるのはこの出前館の業績です。元々は、大阪発のベンチャー企業で「夢の街創造委員会」の社名で、ネットを活用して飲食店向け宅配サービスのポータルサイトを立ち上げた会社です。
事業は細々とでしたが、18年には売上げ54億円で最終利益は5.5億円の黒字と堅実なビジネスを展開していました。それが16年にLINEが資本参加し、19年には社名を出前館に変更して、20年2月にコロナ感染が始まって以降、巣ごもり消費が急拡大してビジネスの狙いがぴったり当たったかに思えました。
ところが20年8月期、売上高103億円と巣ごもり効果で大きく伸びたのに最終利益は41億円の赤字。21年8月期も290億円と前年比3倍近い売上げですが、最終利益は206億円の赤字と売上げ以上に赤字幅の方が急成長するとんでもない事態に陥っています。
赤字の原因は、一つが広告宣伝費の急増です。市場の先頭を走るウーバーイーツに迫るためには、テレビを始めとする広告宣伝に多額の費用をつぎ込むことが、コロナ禍の現状では効果的と考えたようです。実際、利幅の少ないビジネスにしては驚くほどテレビコマーシャルを流していました。
赤字原因のもう一つは、売上原価に該当する配達代行業者への支払いの伸びが大きなウエートを占めたことです。コロナ禍が長引いたことで失業者が増えると思われましたが、実際は配達員の不足が深刻で売上げの伸びよりも配達コストが大幅にかさんでしまいました。
現在、世界経済を牛耳っていると云われるApple、Google、AmazonなどGAFAと呼ばれる企業も、赤字経営から抜け出すのに時間がかかりました。ただこれら会社は、世界を相手に大きな市場相手のビジネスをしていましたから、投資家も目先の黒字よりも将来のために赤字経営に納得しました。
出前館の場合、コロナ禍が収束すると市場の成長もある程度収まることが予想されます。このままでは、出前館は何のために事業を行っているのか、分からなくなりそうな方向に向いています。結局は、経営者不在で事業を進めているようなものです。起業する以上、このような惨めな経営に陥るべきではありません。
【ひと言】
出前館の前身「夢の街創造委員会」は、1990年代後半のITブームに誕生した会社の一社です。楽天をはじめ、サイバーエージェント、DeNA、ライブドアなどわが国を代表するIT企業はこの時期に大挙して誕生しました。時間の経過と共に、現在も活躍している会社は少なくなっています。宅配事業は現在、フィンランドの「ウォルト」、ドイツの「フードパンダ」など外国勢の参入が続いています。今のままの経営では将来はなさそうです。
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