小売店の万引き対策を追い風に起業して、大きな成功を収めている会社が首都圏にあります。90年代のことでした。現在は人材派遣で起業する人が大勢いますが、当時は警備会社での起業が流行りでした。
この場合の警備とは、手軽な路上の交通整理がほとんどで、人材派遣同様に少ない初期投資でリスクも低いと云うことで人気だったのです。Mさんも、初期投資の資金が少ないこともあり、電力会社の伝手を頼りに電線工事現場での警備を考えていました。
その時期にわたしはMさんと起業に関して色々話す機会がありました。「他人と同じ手軽な起業では将来が知れている。最初は苦しいが、他の警備会社が参入できないハードルのもう少し高い、お客さんのニーズのはっきりしている警備で起業してみてはどうか」と、覚えたてのドラッカーの理論を話したことがあります。
その後、Mさんが探してきた警備先は埼玉県の食料品スーパーチェーンでの店内警備でした。営業時間中に、万引きするお客さんに目を光らせる警備です。しかも、それまで業界では常識だった警察や自衛隊を定年になった男性の警備員ではなく、40代50代の女性を警備員として雇いました。
当然、最初の3年くらいまでは、資金繰りや人の手配で綱渡りの経営状態でしたが、しっかりとした仕組みを作り上げてからは、ほとんど右肩上がりの売り上げ増を続けています。警備事業は建設業や港湾労働と並んで、人材派遣をすることが禁止されている業種であることも幸いしました。
若手労働者と違って、中年女性の仕事先が限られているために、職員の採用で苦労することもありません。ただ、他の警備と違って職員が犯人を捕まえてから警察へ渡すまでの補足業務や、人との対応の仕方など絶えず行う研修には時間とお金がかかります。
このノウハウが難しいために、ショッピングセンターやスーパーなどの警備に参入できる会社は限られてきます。Mさんは、全ての商品にチップが付けられる事態を想定して、新しい警備領域を広げようと努力してます。起業や新規事業には、終わりがありません。
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