伝統の「しな織」生産者の大変な苦労の次に、やはり世界的な名産品の販売で起業の成功例を取り上げてみよう。
ベルリン自由大学の経済学の教授で、ドイツのアントレプレナー研究の第一人者であるギュンター・ファルティン氏が、20年前に小額の自己資金で設立した紅茶の輸入販売会社「テーカンパニエ」は、世界最大のインド・ダージリン紅茶の輸入量を誇っている。
ファルティン氏は、起業の研究だけでなく、自身が起業の実践をすることを考え、生産地と西ヨーロッパとの価格差が最も大きな商品の探し出しをした。コンセプトは、消費者満足度が高く、独創的で、高品質、しかも安い商品を世に送り出すこと。
実際に発展途上国を旅行して廻り、紅茶の生産地価格が西ヨーロッパの10分の1であることを知る。その原因を探ると、保管料、配送料、少量販売の包装費に多額のコストが支払われていた。
逆に考えると、50g、100gと小分けにして販売している紅茶を、年1度で500g単位で売ると、コストが大幅に削減できることが分かった。会社設立当初、インドから2トン仕入れたダージリン紅茶は、3週間で完売してしまった。
市価と比べて3、4割安い価格と、インド紅茶局認定の純粋なダージリン紅茶の人気は、ドイツだけでなく、西ヨーロッパへと広がっている。
現在もそのほとんどが通信販売で、年間400トンのダージリン紅茶だけを14万人に販売、日本円にして約10億円の売上げを上げている。
それまで、十分な資金と経営学の知識がなければ難しいとされていた起業を、これまでにない視点と発想で、古い社会構造を打ち破るアントンプレナー(起業)を云い出したファルティン教授はしたたかな実践起業家でもある。